フェロポリス。通称・鉄の街。ここを訪れた多くの人たちが「まるで絵のように美しい廃墟だ」と評する。元々は20世紀に栄えた炭鉱で、ジブリの『ハウルの動く城』に出てきそうな人類史上最大の自走式掘削機は、解体されることなく、今もなお残されたままになっている。ドリフトマスターズ第5戦はその鉄の街にコースを設営し、世界から集まった51人のドライバーたちによってバトルが繰り広げられた。注目の中村直樹選手は初日の予選を18位で通過。3位入賞を果たした第2戦スウェーデン大会の時と同じ順位での予選通過というのもあり、縁起がいい。しかし、実際にはそんなことを言っている場合ではないほどの窮地に立たされていたそうだ。予選1本目は78点。予選2本目は92点。その差は14点。1本目と2本目でこんなにも大きく点数が違うのは、「走り方」そのものを変えたからなのである。
「これまで自分は日本のスタイル、トラクションをかけて走るドリフトにこだわってきました。しかし、このコースではそれが通用しない。1本目を走った時点でそれが分かった。だから、予選2本目は走り方を変えるという決断をしました。日本のスタイルではなく、向こうのスタイルに。ドリフトマスターズの上位選手たちは、長いゾーンを端から端まで、壁スレスレの深い所まで行く。その走りが高得点に繋がっているのは誰の目にも明らか。ただし、それをやる場合、日本的なトラクション重視のドリフトは不向き。だから、向こうの選手と同じようにタイヤをツルツルにして、タイヤの空気圧を2.2キロまでパンパンに入れた。今までに一度もそんなセッティングで走ったことはなかったけど、やるしかない。正直、一か八かの賭けでしたが、結果的に上手くいってホッとしました」。
翌日の決勝は夜。真っ暗なコースを照明が照らす。そして、各マシンのスタートに合わせて大きな炎が立ち登る。鉄の街、美しき廃墟ならではの演出にも目を奪われた。「決勝に出てきたドライバーたちは、とにかく上手くて、そして、勇敢でした。実際のコース上は映像で見るよりも薄暗くて前が見えにくい。その上、半端じゃないほどタイヤの白煙に包まれる。そんな夜と白煙をモノともせず、ガンガン、相手のクルマに寄せていく。一歩間違えたら廃車になるような本当にやばいコースで、それでもミスなく、やりきる。『どんな風にしてドリフトの腕を鍛えているんだろう?』。思わず、そんなことを考えたりもしました」。中村選手の決勝の結果は8位。エンジンの不調が原因で思い通りのドリフトができず、現時点で最もシリーズチャンピオンに近いシャナハン選手に、接戦の末、敗れた。